茜町BOOKS

絵本とかエッセイとか

金子文子

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第21巻

待ちに待った大晦日が来た.夜の十二時過ぎにやっとどうやら仕事の片もついたので、私は、自分の荷物を纏めたり、髪をとかしつけたりして、お訣れの挨拶をみんなの前にした. The long-awaited New Year's Eve came. I finally finished my duties. It was p…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第20巻

仲木砂糖店の生活振りはかなりだらしのないものだった. 学校に通う伸ちゃんが朝の7時に家を出なければならないので、私達は朝の5時から起きてその用意をしなければならなかったが、伸ちゃんが学校に行って小一時間も経った頃若夫婦が起きてくる、10時頃…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第19巻

黙然として、思い思いのことを考えながら、私達はまた歩き出した.そして、上野の不忍の池の畔に来たときに自然と二人の足は停まった. We started to walk again. Keeping silent, we each thought about our own thing.We came to the vicinity of Shinoba…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第18巻

11月30日、忘れもしない、その日の晩だった.しばらく顔を見せなかった伊藤が、ひょっくりやって来た. が、いつもに似ず、伊藤の顔色がわるく元気もなかった.どうしたのだろうと心配しながら、私は急いで家の用をすました. そしていつものようにまた…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第17巻

その頃の私は、学校という重荷をちょっと肩からおろして置いただけに、生活には割合楽であった. で、今までとは反対に、私が伊藤を助けることの方が多くなった.心づけなどに貰ったお金が一円でも二円でも溜まると私はそれを伊藤にやった. そうでない時に…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第16巻

伊藤は三日にあげず店に来て、信仰友だちである店員の山本や家人の誰彼に、宗教上の話をして帰って行くのであった. が、その頃は試験が近づいているのにパンに追われて勉強も碌にできないことをかなり苦痛に病んでいるらしい様子であった. Mr. Ito frequen…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第15巻

「ありがとうございます.私にとっては、それに越したことありません.けれど」と私は、この伊藤のことを話して「そうすると伊藤さんに背くこととなるのが心苦しいんで・・・」と渋った. "Thank you! That's best for me. But ..." I told her about Mr. It…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第14巻

弟の銀ちゃんは二十四、五だったが、家じゅうで一番几帳面なしかしケチな男だった. まだ独身で、家でぶらぶらしていたが、人のいないところでは兄嫁に抱きついたりキスをしたりして、小心な奥さんを困らせていた. 妻にはどうしても兄嫁以上の美人をもらう…

WEB絵本『女中奉公(金子文子)』第13巻

秋原さんの世話で私は、浅草聖天町の仲木という砂糖屋に奉公することとなった. この家には五十四、五になる夫婦と、若夫婦と、若夫婦の子供が2人に、弟が2人のほかに、店員と女中とが各々一人ずつ、それに私を混ぜて都合11人の家族が住んでいた. I got…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第12巻

こうして私は、神に仕え、人に奉仕した. けれど私はその酬いを得なかった. 私はもう三日も食べないでいた.そこでまた新しい職業を求めてまわったけれど、その職業すらも与えられなかった. Thus, I served God and people. But no reward was given to me…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第11巻

簡易食堂で私は、時たま伊藤と一緒になった. 伊藤はやはり、夜間だけ車夫をしていたが、あがりは少なかった.それでも私の困っている時には自分の食を減らして20銭30銭と私に持って来てくれた. I often saw Mr. Ito at the snack bar and shared a tab…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第10巻

だがそれにもかかわらず私はもうどうにもこうにもならなくなっていた. そこでふと思いついて、冬の衣類を2、3枚風呂敷に包んで質屋の暖簾をくぐった. But nevertheless, I was living in extreme hardship. Then, an idea unexpectedly came to me. I wr…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第9巻

そして、かねて硝子戸越しに目星をつけておいた団子屋へ飛び込んで、2皿の餅菓子を食べた. 朝から1食もとらない空腹を充たすには不足だったが、でも、それで幾分かは元気づいた. After that, I ran into a tea parlor. I had my eye on the parlor befor…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第8巻

けれど、品物を取り出すひまもなく、きっぱりとツッケンドンに私は断られた. 「せっかくですが、いま手がふさがっていますから」 手が塞がっている? 物もらいと私は間違えられたのだ! But I had no time to take the goods out. She rejected me. "Sorry!…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第7巻

そこで今度は少しばかり残った商品をもとでに行商を始めてみた.だが、これはまた新米の私にはこの上もなく困難な仕事であった. 毎日、学校から帰ってくるとはすぐ、袴を脱いで帯に締めかえ、商品を抱えて出かけるのではあるが、さていよいよとなるとどうし…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第6巻

引き上げは大概10時頃だった それから私は湯島まで12、3町をテクテクと歩いて帰るのであるが、家に着くのはほぼ11時過ぎだった.そしてその頃にはもう大抵の場合、家のものは戸を締めて寝ているのだった. I usually closed my stall at around 10 o'…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第5巻

隣のお爺さんは面白い親切な人だった. いつも酒で顔を赤くほてらしていたが、酒の気がきれると「姐さんすまないがちょっと見ていてくんな」と私に自分の店を任しておいてどこかへ姿をかくした.その間に爺さんは近くの酒屋へ駈け込んで、コップ酒をあおって…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第4巻

伊藤は私に、湯島の新花町に間を借りてくれた. それから、彼の知り合いの粉石鹸屋から3、4円分の品物を仕入れてくれた.私は早速、その粉石鹸を持って夜の露店商人に変わった. Mr. Ito arranged a rental room for me. It was in Shinhanacho town of Yu…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第3巻

私は何だか、じっとしてはいられないような気がして来た. 何かしら私の頼るべきものがあって、それが私を手招きしているように私には思われた.そうして私は、何だか訳の分からぬ力に引きつけられて行くのであった. Somehow, I began feeling that I could…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第2巻

私は聖書なんか読むどころでなかった. 不安な思いばかりが胸の中を往来した. 穴の中へでも引き込まれるような心細さがヒシヒシと迫ってきた. I couldn't bring myself to read the Bible. My anxiety just kept growing in my heart. Loneliness was comi…

WEB絵本『露店商人(金子文子)』第1巻

白旗新聞店を出たのは、もう夕方であった. I left Shirahata newspaper sales agent. The evening had already come. さていよいよ、そこを出はしたものの、出るだけで準備がまだ出来ていないうちに無理に追ん出されたのであるから、第一その行き場所がなか…

WEB絵本「金子文子(何が私をこうさせたか)父よ、さらば」

"If you leave this home now, our relatives will think that I picked on you and threw out you. Please have a bit of patience for a while," my aunt said. She stopped me as if she asked me. 「お前に今うちを出られては、いかにもワシが苛め出しで…

『東京へ!』

―― まえがき ―― 金子文子の手記のなかの1編を翻訳し、絵本にしました. WEB絵本『東京へ!』翻訳・作画:茜町春彦原作:金子文子 A Picture Book "To the capital Tokyo!"Translated and illustrated by : Akanemachi HaruhikoOriginal author : Kaneko …