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『妖怪、ムシバ小僧』

―― まえがき ――
WEB絵本『妖怪、ムシバ小僧』

絵・文:茜町春彦

 

―― Page1 ――
ムシバ小僧は、恐ろしい妖怪です.

ずいぶんと昔のことです.甘いものが大好きな少年がいました.

甘いものなら何でも食べましたが、歯磨きが嫌いでした.やがて歯が痛くなりましたが、甘いものを食べるのを止めず、そしてまた歯磨きはしませんでした.ますます歯が痛くなり、全身が震える程でしたが歯磨きもせずに甘いものを毎日ずっと食べ続けました.そしてとうとう、虫歯をこじらせて死んでしまいました.

しかし、少年の甘いものに対する執念は消えず、やがて怨念に変わり、それがいつしか妖怪ムシバ小僧を生み出したのです.

ムシバ小僧は、甘いものを丸ごと食べてしまう恐ろしい妖怪です.

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―― Page2 ――
雨田千代子は、飴やチョコレートが大好きな女の子です.

でも、歯磨きが嫌いでした.

今日の朝食は、ママが作ったホットケーキです.イチゴジャムとアイスクリームとチョコレートがのせてあります.お茶や牛乳は嫌いなので、いつもコーラを飲んでいます.今朝は、蜂蜜入りコーラです.

「食べ終わったら、歯を磨いて、早く学校へ行きなさい!遅刻するわよ」とママが言いました.

「歯磨きは夜に、まとめて磨きまーす!」と言いながらママの横をすり抜けた千代子は、通学カバンを抱えて学校へ向かいました.

玄関の内側で目を吊り上げたママが、千代子を見送っています.

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―― Page3 ――
学校に向かって歩きながら、千代子はカバンからキャンディーを取り出して舐め始めました.


しばらくすると、ペタペタペタペタと妖しい足音があとを付けて来るのに、千代子は気づきました.

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―― Page4 ――
立ち止まって振り返ると、そこには妖怪ムシバ小僧がいたのです.

「ねぇ、それ、どんな味がするの.甘い?」とムシバ小僧が言いました.
「うん、甘いわ.とても甘いわ」とキャンディーを舐めながら千代子は答えました.
「食べていい?」
「えっ、なんで・・・来ないでー」
「食べたい」
「近寄らないで、やめて・・・ぎゃあーあぁぁ・・・」

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―― Page5 ――
ムシバ小僧は、両手でガッチリと千代子の体をつかんで持ち上げて、そして、キャンディーを舐めている千代子を丸呑みにしてしまいました.

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―― Page6 ――
大福慶喜は、和菓子や洋菓子が大好きな男の子です.

いつも、こっそり独りで、お菓子を食べています.でも歯磨きは嫌いでした.

授業が終わって、帰りの時間になりました.校門のところで友達と別れて、慶喜は一人で家に帰りました.

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―― Page7 ――
慶喜は家に向かって歩きながら、どら焼きをカバンから取り出して食べ始めました.

しばらくすると、ペタペタペタペタと妖しい足音があとを付けて来るのに、慶喜は気づきました.

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―― Page8 ――
立ち止まって振り返ると、そこには妖怪ムシバ小僧がいたのです.

「ねぇ、それ、どんな味がするの.甘い?」とムシバ小僧が言いました.
「うん、甘い.あんこがすごく甘い」と慶喜は答えました.
「食べていい?」
「やだよ!」
「食べたい」
「来るなよ、えっ、えっ、なにをするんだ・・・ぎゃあーあぁぁ・・・」

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―― Page9 ――
ムシバ小僧は、両手でガッチリと慶喜の体をつかんで持ち上げて、そして、どら焼きを手に持った慶喜を丸呑みにしてしまいました.

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―― Page10 ――
佐藤里子は、歯磨きが好きでした.歯磨きをすると、スッキリして気持ちがいいのです.朝昼晩と一日三回、歯磨きをしています.

学校から帰って来ると、ママからお使いを頼まれました.

「里子、いいところに帰って来たわ.ちょっとスーパーまで行って、三温糖を一袋、買ってきて頂戴」

「はーい」

里子は、ママから財布を預かって、家から200メートル先の食品スーパーへ砂糖を買いに行きました.

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―― Page11 ――
買い物を済ませた里子は、レジ袋を断って2円引きされた三温糖を抱えながら、家に向かって歩いていました.

しばらくすると、ペタペタペタペタと妖しい足音があとを付けて来るのに、里子は気づきました.

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―― Page12 ――
立ち止まって振り返ると、そこには妖怪ムシバ小僧がいたのです.

「ねぇ、それ、砂糖でしょ?」とムシバ小僧が言いました.
「ええ、そうよ」と里子は答えました.
「食べていい?」
「何言ってるの.ダメに決まってるじゃない」

すると、ムシバ小僧は両腕を大きく開いて、里子に向かってグングン近付いて来ます.

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―― Page13 ――
急に、ムシバ小僧は止り、うしろに飛び退きました.突然、ムシバ小僧と里子の間に何者かが割り込んで来たのです.

「誰だ、おまえは!」と言ったのはムシバ小僧.
「私の守護霊よ」と答えたのは里子.
「なんだって!」と驚いたのはムシバ小僧.
「私の守護霊.名前はダイヤモンドデンタルリンス!でも私の守護霊が見えるなんて、あなた只者ではないわね」

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―― Page14 ――
「守護霊だか、何だか知らないがぁ、お前らぁ、まとめて食ってやるぅ!」

叫び声をあげながら、ムシバ小僧が突進してきます.

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―― Page15 ――
守護霊のダイヤモンドデンタルリンスが「フロォースパァーンチィ」と声に出しながら、ムシバ小僧に得意技を放ちました.

大きな衝撃音がしました.

しかし、ムシバ小僧は数歩よろめて後ろへ戻っただけで、倒れません.

「大したことは無いな」と言いながら、ムシバ小僧はニヤニヤ笑っています.
「あら、ダイヤモンドデンタルリンスのフロスパンチを受けて倒れなかったのは、あなたが初めてよ.結構やるじゃない」と言ったのは里子.

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―― Page16 ――
「ウピョピョピョピョピョピョォー!」

怒りに燃えて奇怪な叫び声をあげながら、ムシバ小僧が再び突進してきました.

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―― Page17 ――
ダイヤモンドデンタルリンスはフロスパンチを繰り出しました.

ムシバ小僧は頭を下げて、攻撃をかわしました.そして大きな口を開けて、跳びかかりました.

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―― Page18 ――
その瞬間、「プラアークゥコントロォールキッィーク」と声に出しながら繰り出したダイヤモンドデンタルリンスの必殺技が、ムシバ小僧の顔面に炸裂しました.

一秒と経たないうちに、ムシバ小僧は分子のレベルまで分解されて跡形もなく消滅しました.

「ダイヤモンドデンタルリンスの必殺技、プラークコントロールキックにかなう者なんて何処にもいないわ」と言って、里子は走って家に帰りました.

ムシバ小僧は消え去りました.しかし、いつまた、第二のムシバ小僧が現れるか誰にも分かりません.歯磨きを怠れば、次は君の前に現れるかも知れないぜ.
(了)

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―― あとがき ――
この本はパブーに於いて公開している電子書籍、創作絵本『妖怪、ムシバ小僧』を加筆修正したものです.